すみやきの小説置場

小説を書き始めた18歳から三十路の今に至るまでのすみやきの小説置場

幸せの時間

 彼と一緒に歩く時間が唯一の幸せな時間でした。私が彼といっしょにいること。それだけで十分でした。
 現在私達の住む世界は決して治安がいいとは言えません。一日の食べ物もままなりません。いつ殺されるかもわかりません。だから私は彼と一緒に食料を探すのでした。苦しいはずのその時間は私にとって一番の幸せの時間だったのです。
 彼はよく私にこう言ってくれました。
「もう少しこの世界が平和になったら、君といろんなところに行きたいな」と。
 私は信じました。いつかきっとその時がくると。
 私たちの住む集落全体の食料が少なくなったある日、彼は一山離れた集落まで行くことを私に提案しました。
 私は反対しました。その集落に行く途中には私達がおそれている危険地帯を通らなければならなかったからです。
 しかし彼は意志を変えませんでした。そして私は彼についていくことを決めたのです。
 私は彼を信じていたのです。もし命を落とすことがあったとしても彼と一緒なら大丈夫だと思ったのです。
 そして私達は集落に向かって歩きました。ひたすら歩きました。
 そして後少しで集落に着くまさにそのときでした。
 銃声が聞こえたのです。それはそれは大きな音でした。
 一瞬何が起こったのか私にはわかりませんでした。
 ふと目を横に向けると彼の体から血がにじみ出ていました。彼が銃で撃たれたのです。
 私はその現実を受け止めることが出来ませんでした。夢であって欲しいと思いました。
いやこれは夢なんだととっさに思おうとしました。
 しかしそんな余裕はありませんでした。銃が私を狙っていたからです。
 私は逃げました。もう必死になって逃げました。
 どのくらい逃げたでしょうか。私は倒れ込んでしまったのです。そしてもう私には、起きあがる気力はありませんでした。
 もう彼はいない。
 もう彼と一緒にいられない。
 私は声を枯らして泣きました。
 遠くに聞こえる銃声を聞きながら――。

「めずらしいな。このへんに狸がいるなんて」
 男は撃ち落とした獲物を見ながら言った。
「もう一匹いたんだがな。もう逃げちまったみてえだ」
 もう一人の男は残念そうに言った。
「けどこいつは大玉だ。毛皮を売れば当分飯にはこまらない」
「だが俺たちがねらってんのはこんなもんじゃねえだろ」
「ああ、もうすぐだよ。絶好の熊の穴場はな……」
 そういって二人の男は去っていった。
 獲物の狸と銃を肩にかつぎながら――。