すみやきの小説置場

小説を書き始めた18歳から三十路の今に至るまでのすみやきの小説置場

私の喜び

お題:私と喜び 制限時間:15分
 妻が笑わなくなったのは、私が仕事を辞めてからのことだ。

 出会ったころは常に笑顔を絶やさずに、私に対して嫌な顔一つ浮かべたことないような妻だった。

 だけど、私が体調を崩していくにつれて、妻は笑わなくなった。時に冷静に、時にいらだち、時にあせっている顔をしている。

 それは私があと余命一日となってもかわらなかった。

 私は妻に心配をかけていたのだ。あんなに優しい妻の笑顔を――喜ぶ顔を無くしてしまった。

 妻が喜ばないことには私も喜べない。

 このままでは、安心してあの世に行けない――。


 そう思った瞬間だった。

 妻が……何年ぶりに私にほほえみかけたのだった。若い時と同じ――あの笑顔。

 私は胸が一杯になった。そしてすごく心が満たされた状態で――意識が遠のいていった。

 やっぱり、私の喜びは妻の喜びだ――。


     ◇

 その後もやはり彼の妻は笑顔を絶やさなかった。夫が闘病生活を送っていた時にはなかった笑顔だった。

 手にはたくさんの宝石類が光っている。

 そしてテーブルには夫の遺産の残りが置かれている。

 夫が生涯、見ることのなかった最高の笑顔を浮かべ、妻は喜びを隠しきれずにいたのだった。