すみやきの小説置場

小説を書き始めた18歳から三十路の今に至るまでのすみやきの小説置場

最後の隣人

即興小説トレーニング」にて執筆。http://sokkyo-shosetsu.com/
お題:最後のマンション 制限時間:15分

「……さてと、だいたいは片付いたかな」

 目の前には段ボールの山。あらためて片付け終わった部屋を見渡す。

 こんな広かったっけこの部屋。

 もっと整理整頓すればもっと広く生活スペースを使えたのではないか、そんなことを思う。

 だけど、そんなことを考えることは無意味だった。

 だって、もうこのマンションから出て行くのだった。


 ピンポーン。


 インターホンが鳴る。画面に映っていたのはお隣さんだった。

「こんにちは」

 隣人の女性はぺこっとおじぎをしてきた。

「あ、こんにちは」

 僕もお辞儀を返す。

「えーっと、お引っ越し今日でしたっけ」

「はい、この後引っ越し業者が来ます」

「えっと、マイホームとか」

「そうなんです。だからもうマンションに住むこともないんです。最後のマンションってことですね。ここが」

「そうですか……。私としては、あなたのいびきが部屋越しに聞こえてこなくなって大助かりです」

「……とんだご挨拶ですね。私もあなたの部屋から流れてくる音楽が部屋越しに聞こえてこなくて大助かりです!」

「……そうですか。寂しくなりますね!」

「そうですね! 早く引っ越してしまいたいくらい!」

「じゃあ、また会うことがあったら! ここで会うことは二度とないでしょうけどね」

「そうですね! またマンションに戻ってくることなんてないですね!」

 隣人とそんなやりとりをしているうちに引っ越し業者が来た。

「じゃあ!」

「じゃあ!」

 ぶっきらぼうな挨拶で僕は最後のマンションの隣人と別れて、マイホームへと移動した。

     ◇

 マイホームは思ったより、快適だった。一人で住んでたマンションよりも広々とした空間。

 一人では、広いくらいの空間――。

 そんなことを思っているうちにインターホンが鳴った。

 外にいたのは見たことのある女性だった。

「こんにちは」

 さきほどと同じようにお辞儀をしてくる女性。

「いや、こんにちはじゃないだろ? ――ただいま、だろ!」

 そうして僕は彼女に抱きつく。

「ただいま」

「おかえり」

「あなたのいびきが同じ部屋で聞けるなんて――」

「君の流す音楽が同じ部屋で聴けるなんて」


 僕らの最後のマイホーム生活が始まった瞬間だった。