すみやきの小説置場

小説を書き始めた18歳から三十路の今に至るまでのすみやきの小説置場

再弱な王者の武道会。

「即興小説トレーニング」にて執筆。http://sokkyo-shosetsu.com/
お題:最弱の勝利 制限時間:15分

 僕は決して強い男ではない。

 そんなに筋肉質のほうではない。むしろガリガリでとても格闘に向いているタイプではない。

 ただ、そんな僕がいざ、格闘の舞台にたつとみんなが恐れおののくファイターへと変わる。

 僕が拳を突き出しただけで、相手はふっとぶし、足をすっと上げただけで、相手は立ち上がれなくなる。

 正直、僕には敵なんかいない。正直、僕より強いやつがいないこの格闘自体にも意味を見いだすことはできない。

 だけど、僕の目的は別にある。観客席を見ると初老の男がぽつんと座っているのが見える。

 僕が手を振ると彼はにっこりと笑って、僕に手を振り替えした。

 ――父さんだ。

 僕は父さんが喜んでくれるのが一番だ。父さんの笑顔のために――僕はたたかい続ける。


     ◇

「お疲れ様」

 初老の男は一人の格闘家に声をかける。

 決勝で優勝者にぼろ負けした準優勝者だ。

「これ少ないけどお礼」

 そうして、彼は少ないとはいえない額の金を男に握らせた。

「また、頼むよ」

 そうして初老の男は去って行く。

 初老の男もまた息子の笑顔が好きだった。息子の笑顔のためだったらどんな手段だってとる――。


     ◇


 大金を手にした男が使い道を考えて浮かれていると、また来客が現れた。

 来客は、男の腹に拳を突き上げる。そして、頭を思い切り蹴り上げた。


 大会では見せなかった機敏な動き。準優勝者はなすすべもなくそこに倒れ込んだ。


 ガリガリで貧弱な男は準優勝者の男から金を巻き上げた。

 彼は父の笑顔よりも札の偉人の笑顔の方が好きだった。

 そのためだったらどんな手段でもとる――。