すみやきの小説置場

小説を書き始めた18歳から三十路の今に至るまでのすみやきの小説置場

バー。そこはなんでも叶うところ。

「即興小説トレーニング」にて執筆。http://sokkyo-shosetsu.com/
お題:恋の酒 制限時間:15分

 俺が足繁く通う一件のバーがある。

 別に特別なバーではない。マスターが一人でやってるような小さなバーだ。

 この近辺でバーなんて数え切れないくらいあるが、客が要求したものをすぐに出せるバーはここ以外に知らない。

 どんなメジャーな酒からマイナーの酒までなんでも置いてあるし、客の細かいリクエストにも応えてくれる。

 ひとつ欠点なのが、マスターが無愛想なことくらいだろうか。いや、けどバーにはこれくらいのマスターのほうがちょうどいいのかもしれない。


 今日も一人の客がやってきた。そこで僕は今までに聞いたことのないような注文を聞くことになる。

「恋に効く酒をくれないか。実はこの後意中の女性にプロポーズする予定なんだ。そこで絶対成功するような酒をくれ」

 若い男性客は静かにそうつぶやいた。

 変な客もいるもんだ。いくらここがなんでも揃うって言っても――。


「ございますよ。告白した相手に必ずOKをもらえる酒が……」


 そういってマスターは一杯のショットグラスを彼に差し出す。

 男性客をそれを一気に飲み干すと会計して店を飛び出してしまった。

「え? マスター、そんなお酒あるの? っていうかいったいこのお酒何?」

「ただのバーボンですよ」

「え? じゃあただのはったり? マスターも人が悪い」

「けど相手から必ずOKをもらえるのは本当です」

「え……それどういうこと」

 その晩はいくら聞いてもマスターは答えてくれなかった。


 その翌日。

「彼、プロポーズに成功しました」

「ええ? 本当にそんなお酒あったんだ! いったいどうやって」

 そうするとマスターは僕に左手を見せてきた。

 彼女の薬指には指輪が輝いている。

「店が終わった後、プロポースされたんです。もちろん、OKしました。だから絶対にOKするっていったでしょ?」

 長い黒髪をかきあげてマスターは言った。

「……おめでとう。じゃあ祝杯に恋に効く酒をひとつ」

「……売り切れです」

 マスターは意地悪で――それでいて可愛らしい笑顔を浮かべていた。