すみやきの小説置場

小説を書き始めた18歳から三十路の今に至るまでのすみやきの小説置場

富岡さんはきっと脱法的なアレなんだ。(3)

「んきゅっ……」

 彼女が小動物のように鳴くのを聞いて、私もなんだか息苦しくなってくる。

 苦しい。気持ちいい。苦しいって気持ちいいんだ。本当にど変態怪獣だな、私は。もうどうしようもないや。

 口ってあったかい。これだったら湯豆腐と一緒だね。彼女が声を出しやすいようにもっともっとあっためてあげないと。

 あったかい。そして甘い。苦しい。気持ちいい。

 普段は交わらないような感覚が交互に私の頭をもみほぐすような、そんな今まで味わったことのない気分。

 生きてればいいことってあるんだね。知らなかったよ。

 彼女の息がだんだん荒くなってきた。さすがにやめてあげないとまずい。

「この前の続き」

 また口から言葉が出てくる。そうだ。私はこの前のキスの続きがしたかったんだ。

 おなかが減るのと同じように、時間が経てば経つほど唇が恋しくなってくるあの感覚。

 その間も幸せな時間ではあったのだけど、私の口は……舌は彼女を求めていた。

「……起きてたんだ?」

 ちっちゃくて透き通るような声だった。うん、間違いない。

 やっぱり私彼女が好きだ。好きで好きでしょうがないんだ。

「その声が聞きたかった」

 声を出せたご褒美に私はまた舌を入れる。よくできましたよくできました。

 ぺろぺろと彼女の舌を舐めてやる。

 彼女の目はとろーんとしてきている。私の首もとはよだれで濡れてきている。

 もう、どっちのものだかわからない。私たちのよだれが首もとをぬるぬるさせる。

 えっちい耳たぶを人差し指でなぞってやる。

 目だけでなくとろーんとした彼女の身体がぴきっ……と震える。

 その瞬間、ベッドの上のヘッドホンが床に落ちた。

 ああ、これは割れた音だ。どうしよう。大事になものに違いないのに……。

 彼女の目がヘッドホンに向く。

 ごめん。ごめん。あなたの大切なものを――。

 何も考えられずにいると、彼女は私に覆い被さってきた。

 ぎゅう……と私に抱きついてくれる。

 なんで? だって私あなたの大切なものを壊しちゃったかもしれないんだよ。

「……ぅ……き」
「え?」
「好……きぃ」

 もう苦しいくらい彼女は私をぎゅっとする。

 ああ、やっぱり苦しい。けどやっぱり気持ちいい。

 私の目の前には、彼女のえっちい耳があった。

 はむっ……と耳を頬張ると、また彼女はぴくっと震える。だけど、震えながらもまだ私をぎゅっとしてくれている。

 私は耳を唇ではさむ。

 豆腐くらい温かい。だけど豆腐よりは堅い。

 唇くらい温かい。だけど唇よりも堅い。

 彼女のえっちい耳はすっぱくって、そして、どこかほろ苦かった。

 もう、私は眠らなくてもいい。おなかがすいてたって食べなくていい。

 彼女がいない方が……おそらく苦しいもの。

 授業を終えるチャイムが鳴る。カーテン閉めないと誰かが見てしまうかもしれない。

 だけど、やっぱりぎゅっとしてくれてる彼女をどけることはできない。

 彼女が私をぎゅっとする。そして私も彼女をぎゅっとする。

 保健室に近づく足音は聞こえなかった。

 私たちはぎゅっとしあって、何回もキスをする。

 聞こえるのは、お互いの吐息、そして加湿器の動く音がかすかにするだけだった。

 


第二話 耳と唇と豆腐だと、どれが柔らかくて美味しいのでしょうか。(了)